
以上のように概略をまとめることができるが、確実に酔いを発症した例が少ないこと、医学的見地からの検討が十分でないこと等により、所見の大部分は仮説の域をでないことも明らかである。その最も基本的な理由は、動揺刺激に対する心理的反応は、血液成分や心臓を初めとする臓器のように、交感神経、副交感神経の先進・抑制の効果を受けにくいことにある。即ち、不安、怒り、恐怖と言った情動や意志は、大脳皮質における中枢神経系によって創り出された後、自律神経機構を通じて効果臓器、器官に伝達されるものである。従って、同一の刺激を加えた状態でも、わずかな周辺条件の違いで創り出される神経伝達物質、伝達機構が異なり、心理的反応の違いを生みだし、結果的には生理的反応にも違いが生じることになると考えられる。
このような点を明らかにすることが、乗り物酔い発症の心理的メカニズムの解明につながると考えられるが、脳波の計測・解析だけでは全てを明らかにすることは難しい。さらに別の計測方法(例えば、MRI,PET等)の可能性を検討する必要があろう。
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